INTERVIEW

インタビュー

松尾香里さん「フリーランスで働くからこそ、徹底的にやりがいのある仕事を選ぼうと思っています」

はじめに

今回は、フリーランスとして多くのスタートアップ企業のヒューマンリソース(HR)部門に携わってきた松尾香里さんにお話を伺いました。

松尾さんは新卒後大手予備校に入社し、HR部署の部長代理となるまでにキャリアを積まれましたが、その後出産・育児の中で退職を余儀なくされました。自らのキャリアと育児を両立させる道を模索し、フリーランスとして再出発。その後、様々なスタートアップ企業で採用等のHR部門で実績を重ねていらっしゃいます。
松尾さんのキャリア構築への考え方やフリーランス・時短勤務への示唆に富むアドバイスは、自らのキャリアを考える女性にとって必読です。

フリーランス 松尾香里氏

【松尾香里氏 略歴】

早稲田大学卒業後、株式会社栄光(現Z会ホールディングス)入社。講師として勤務後、人材開発部に異動。部長代理として研修・採用・人材開発等に携わる。出産を機に、2012年退社。
その後、フリーランスとしてエンジニア採用等を中心として実績を重ねる。2017年9月にEdtech系スタートアップ企業に参画(就業形態:業務委託、10~16時×5日)し、人事業務を担当。IPOを目指し、1年間で30名もの即戦力人材採用に成功。

大手予備校で立ち上げたHR部署で、研修・採用の仕組みづくりに貢献

学生時代は舞台女優を目指していたという松尾さん。厳しい現実を前に夢は断念しましたが、「人前で何かを表現する仕事を」という思いから予備校講師として株式会社栄光(現Z会ホールディングス)に入社します。
そして、「一生分の仕事をした」くらい働いた校舎での実績が認められ、入社4年目で本部のヒューマンリソース部署に配属されました。


ーHRの部署ではどのような業務を担当されたのでしょうか。

当時、非常勤講師は大学生を中心に8000人規模でいたのですが、彼らにできるだけ長く働いてもらうことで塾の品質を上げたいという目的のもとHR部署を立ち上げました。

大学生としてはアルバイトなのでいつかは辞めるのですが、「先生が変わる」というのは保護者や生徒にとっては致命的な問題です。非常勤講師に出来るだけ長く働いてもらう仕組みや、授業の質を担保するための研修システム等を、経験の長い社員や外部コンサルタント等と協力しながら作り上げて行きました。

未経験領域で全くのゼロから物事を築き上げていく中で、「しっかりリサーチすること」、「人脈をうまく使うこと」「会社視点で物事を考えること」などが身に付いた気がします。20代の一社員が、何十名もの部長達に新たな仕組みの導入を理解してもらうためには、「どう論理的に、上手に説明を重ねるか」といったことを考えるようになり、人を納得させること、組織を動かすことについて多くを学ぶことができました。

出産後、保育園の壁により退社を決意

ー良いご経験をなさり、その後部長代理になるほどの高い評価を受けていたと思うのですが、その後退社なさったのはどのような経緯だったのですか。

部長昇進試験直前に妊娠が判明しました。初めての女性管理職の妊娠ということで、会社も大変気遣ってくれましたが、私自身が塾という夜型の仕事が続けられる自信が持てず、結局昇進試験は受けず、産休・育休に入ることとなりました。

1年後の職場復帰を予定していましたが、今度は保育園問題が立ち塞がりました。2年間どこの保育園にも入れなかったのです。自分のキャリア以前に、「子どもをどうするのか」という問題があるのだと愕然としました。

そして、結局3年目で幼稚園に入れることにしましたが、幼稚園から15時には帰って来てしまうので正社員での復帰は無理でした。
会社からは「パートで戻りますか?」とも言われたのですが、結局そちらの道を選択することもできず、かといって一線に復帰してキャリアを構築していくビジョンも持てず、「それならこの会社にしがみつくより次の道を模索したほうが良い」と考え、退職することにしました。

フリーランスとして再スタート

ー復職交渉中に退職を決意されたということですね。退職後、すぐにフリーランスの道を選ばれたのですか。

そうですね。ただ、「フリーランスありき」で考えていた訳ではなく、子どもが幼稚園に行っている5時間の中での働き方を模索した結果そうなったという形です。

5時間でできる勤務形態や仕事をリサーチしましたが、当時は文系のフリーランス向けの業務がまだ殆どなく、パートのレジ打ちか、経理の派遣位。事務スキルはありませんでしたし、「ニーズがないのか…」と八方塞がりとなっていました。

そんな時、人材開発に携わっていた時の部下から「グループ会社で研修ビジネスを立ち上げるので、手伝ってもらえないか」と声が掛かり、引き受けたのがきっかけでした。
1年程立ち上げに関わる業務を行い、その後運用フェーズに入ったところで徐々に引いて行きました。

そして、そこからまた次のキャリアに向けて新たな悩みが始まりました。

フリーランスとしてぶつかった壁

ー次の仕事は、どのようなポイントで選ばれたのでしょうか。

「IT系の仕事または採用ができること」、「英語を使った仕事ができること」、そして「ベンチャー等小さい規模の会社を経験すること」を軸に探しました。
IT系や英語のスキルはその後の自分の付加価値になるはずですし、小さい規模の会社を経験することでそれまでと違った価値を見つけられるのではと考えました。

ーこの時点ではエンジニア採用は未経験だったのですね。松尾さん=ITエンジニア採用に強いイメージだったので意外です。

IT採用の経験はゼロでしたが、たまたまこの3つのポイントに合致するHDEという会社を紹介され、採用業務を引き受けることにしました。

ー新たな環境で、松尾さんの可能性を広げる良い機会になったと思いますが、大変だったことも多かったのではないでしょうか。

壁はいくつもありました。
一つは、フリーランスで働く難しさです。私としては未経験領域でも、周囲は「フリーランス=プロフェッショナル人材」とみなします。そんな中、短期間でなかなか結果が出せない状況に陥ると、「周囲の期待に応えられていない」と感じるようになりました。

もう一つは、職場と在宅の仕事の配分が分からず、家でとことん仕事をしてしまい、生活のバランスが崩れてしまったことです。家族や家庭をないがしろにして夜じゅう仕事しているのに、結果はなかなか出ない…。公私の全てが悪循環に陥ってしまいました。

その他にも会社の公用語が英語だったことや、ベンチャーで働く人の優秀さについて行けなかったこと等が重なり、最終的には半年ほどで退職することになりました。

インタビュー時の松尾さん。丁寧にご経験を振り返りながらお話頂きました。

エンジニア採用のスキルを確立、そしてHR全体に貢献できるステージへ

ーそんな挫折があったのですね。どのように事態を打開されたのでしょうか。

次にエンジニアやゲームプランナーの採用面接対応を依頼されたgloopsという会社で貴重な出会いがありました。
ここは当時アウトソースをたくさん活用しており、リクルートでIT企業担当をしていた女性や、結婚退職後にフリーランスをしている方などがいらっしゃいました。面接対応するために、IT開発のしくみやエンジニアに関することなどを詳しくレクチャーしていただく機会に恵まれました。ここで幅広い知識を培うことができ、その後はスムーズに仕事を回せるようになっていきました。

その後に転職したセガでは中途社員の大規模採用戦略策定等の上流工程を、次に移った立上げ期のGame Withでは認知度がない中でのエンジニア採用などを担当され、フリーランスとしての実績と活動の幅を拡大していきます。

ーGame Withは上場のタイミングで退職されたのですね。

はい。ちょうど上場の日に卒業しました。採用だけでなく、その会社に必要な組織を経営陣と相談しながら一緒に作り上げていく、つまりHR全体に主体的に関わり、貢献したいという思いが強くなり、次のステップに進むことにしました。

ー現在の企業への転職はHR全体に関われることを最優先に考えたということでしょうか。

はい。今度も小規模な会社が良いと考えていました。それと、その会社のプロダクトに興味が持てるか、企業の成長度合いなども判断材料にしました。

キャリア構築の視点から転職先を考える

ー松尾さんはいつも、ご自身のキャリア構築を意識されながら転職先を選ばれているように感じますが、エージェントとはどんなご相談をされていますか?

キャリア構築はかなり戦略的に考えており、基本的に自分で決めています。
エージェントの方からも情報収集はしますが、基本的には(ママテラスの)河西さんや知り合いのエージェントなどの詳しい方に「この会社はどう思われますか」などと聞くことが中心で、自分の軸を明確にするための相談はしません。

ー転職先の企業については、どうやって調べていらっしゃいますか。特にスタートアップ企業の探し方は、分からない方が多いと思います。

いくつかチェックポイントがあります。
採用という職業柄、優秀な転職者が受けているスタートアップは勢いのある企業だったりするので、気にして見ています。
また、有名なCTO(chief technical officer、最高技術責任者)等がどこかに転職している場合もチェックします。その転職先を調べると、急成長していたりしますね。
あとはFacebook等でエージェントの方達が様々なベンチャー情報を載せているので、その動向には絶えず注意を払っています。
そのあたりの、あらゆる断面情報を複合的にリサーチして選んでいます。

スタートアップの面白さはスピード感、そして、当事者として進められること

ースタートアップで仕事をすることの面白さはどこにあると思われますか?

やはり経営陣との距離が非常に近いので、提案や相談をすぐにできること、そして、それがすぐに実現できるスピード感は非常に心地良いと感じています。
また、特に上場が近い企業の場合、明確な目標がある中で「会社をどうやって成長させていくか」といった当事者意識を持ちながら働ける醍醐味がありますね。

一方で、マイナス面としては、大企業なら当たり前の仕組みやマニュアル、福利厚生などはスタートアップには期待できない部分です。その決定経路さえ定まっていないケースが多いと思います。
採用の場面で「レポートラインはどこですか?」等を聞かれることもあるのですが、「まだまだ未整備なので、一緒に作っていきましょう」などと回答しています。何もない中から自分で主体的に仕組みを作っていける方だとよいと思います。

「自らの原動力はどこにあるか」を見極めることがスタートアップ転職のカギ

ースタートアップに転職される方へのアドバイスをお願いします。

これは採用担当としても強く感じる部分ですが、スタートアップに対してしっかりとしたマネジメント体制、リッチな福利厚生や教育制度、高い年収条件などを期待して入られると、ミスマッチが生じることが多いです。

優秀な方への需要は高いですし、スタートアップへの憧れがある方もいらっしゃいますが、それだけだとミスマッチとなることが多く、「自らの原動力がどこにあるのか」をしっかり見極めることが重要だと思います。

事業そのものにやりがいを感じてやるのか、経営陣とともに仕組みを作っていくことにやりがいを感じるのか、逆に、出来上がった組織で仕事をすることにモチベーションを感じるのか、教育やきちんとしたマネジメント体制の中で働くことにモチベーションを感じるのか。モチベートされるものと会社の状況が異なると、「会社に〇〇が無いから、自分は上手くいかない」と誰かのせいにしながら働くことになる気がします。

30名もの人材採用に成功して移転を果たした新オフィスでの松尾さん

時短勤務だからこそ200%の集中力とスピード感、そして段取りを意識

ー松尾さんは現在時短勤務という勤務形態を取っていらっしゃいますね。時短勤務で結果を出すために工夫されていることがあればお聞かせいただけますか?

現在は、原則10時から16時、週5日という契約で働いています。面談や会議などで残業することもありますが、基本的には16時で切り上げて帰っています。
在宅勤務も可能となっており、例えばダイレクトソーシング等オフィスでなくてもできることは、家庭に影響が出ない範囲でやっています。あとは子どもの病気や夏休み等の時に、週1~2回は在宅勤務しています。

工夫の部分は、限られた時間の中で自分の業務を進め、具体的な成果を出していかなければいけないので、タスクをスムーズに進められるような決定事項や段取りを常に明確にしています。仕事ができる時間は1日5時間しかないので、その5時間は200%の集中力とスピード感でやることを日々意識しています。

また、原則として自宅で仕事はしないようにしていますが、「どうしても」という時には子どもが寝てからPCを開くことにしています。仕事に対しても子どもに対しても、中途半端に向き合うことはしないと決めています。

フリーランスで働くからこそ、良い仕事を選ぶ

ーフリーランスを目指している方にアドバイスをお願いできますか。

フェーズによってアドバイスは変わってきます。
フリーランスとしての実績がないと仕事も選べませんので、経験が浅い間は仕事を選ばず何にでもチャレンジして実績を作っていくことが必要かと思います。
ある程度実績を積んだ後は、やはりフリーランスで働くからこそ良い仕事を選ぶことが大切なのではないでしょうか。私自身も、自分のかけがえのない時間を掛けるのなら徹底的にやりがいのある仕事を選ぼうと思っています。

フリーランスになるタイミングですが、若いうちに憧れて飛び出すことはあまりお勧めしません。私自身、最初の会社でのマネジメント経験が多くの場面で活きた実感がありますので、できればマネージャーまでは経験し、会社視点を備えた上でフリーランスになった方が良いかもしれません。

本日は素敵なお話をありがとうございました。

edited by 河西あすか

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